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負けてもなお、前を向く理由。斉藤貴大が語った天皇杯、支えてくれる人への感謝、そして来季への執念

天皇杯の舞台には、独特の空気がある。
いつもの体育館とは違う。いつもの試合とも違う。たくさんの声援、張り詰めた緊張感、そして「この一戦に懸ける」という全員の思いが、コートの空気を変える。

伊丹スーパーフェニックスの斉藤貴大は、その特別な舞台を誰よりも冷静に、そして繊細に受け止めていた選手の一人だった。今季の天皇杯。チームは準備してきた戦術を携えて臨んだが、結果は初戦敗退。

それでも斉藤の言葉を追っていくと、そこにあったのは単なる悔しさではない。応援してくれる人たちへの感謝、所属先への責任、そして「また挑む」ことを決してやめない覚悟だった。

「緊張する自分」を受け入れて入った天皇杯

斉藤は、自身を「緊張しい」だと表現する。

大舞台になればなるほど、心も体もいつも通りではいられない。それを隠すのではなく、まず認める。そこから彼の準備は始まっている。向き合ったのは「緊張しない自分」になることではなく「緊張していると分かりながら、いつも通りの行動を取れる自分」でいることだった。

だから今回の天皇杯でも、特別なことはしなかった。
大事な試合だからこそ、普段から決めている準備を、いつも通りにこなす。緊張を消そうとするのではなく、その緊張ごと抱えてコートに立つ。斉藤はそうして試合に入っていった。

そして実際、試合が始まれば、その緊張は少しずつ別の感覚に変わっていく。

自分たちが積み重ねてきたものを出すことに意識が向き、「やってきたことを信じる」時間へと変わっていった。

準備してきた戦術と、前半に生まれた誤算

今回、伊丹は埼玉ライオンズ戦に向けて、時間をかけて準備してきた戦術があった。
斉藤の言葉からは、それが場当たり的なものではなく、数カ月単位でチームが話し合い、積み上げてきた挑戦だったことが伝わってくる。

狙いは、自分たちの強みを生かすこと。

スピード、高さ、テクニック、それぞれの特長を組み合わせながら、守備では相手に難しいシュートを打たせ、攻撃では自分たちの得点につなげていく。そのイメージを持って試合に入った。

第1クォーター、守備面では一定の手応えがあったと斉藤は振り返る。

一方で、点差以上に重かったのは「取れるはずの点が取れていなかった」ことだった。

やりたい戦術は見えている。崩せている場面もある。けれど、最後のシュートが決まらない。そこに、試合の難しさがあった。

第2クォーターに入ると、流れは少しずつ相手へ傾く。

斉藤は、埼玉が試合のテンポや攻防の切り替えを変えてきた感覚があったと語る。伊丹はスピード感を出しながらも、ミスによってシュートまでつながらない場面が増えた。ディフェンスは一瞬で終わり、オフェンスも一瞬で終わる。気づけば、体力も、流れも削られていた。

「このままでいいのか」と揺れながら、それでもやり続けた

前半、斉藤には強い焦りがあったという。

それは単に点差に対する焦りではなかった。自分たちが「勝てる」と思い描いてきた試合展開と違っていたことへの焦りだった。

このまま準備してきた戦術を続けていいのか。

それとも変えるべきなのか。やり続けなければいけないという思いと、目の前の現実との間で、心は揺れていた。
ただ、その葛藤こそが、この試合に懸けてきた時間の裏返しでもある。

何も準備していなければ、迷いは生まれない。迷いがあったのは、信じてきたものがあったからだ。

後半に入ると、伊丹は追い上げるために、自分たちのこれまでのバスケットへと舵を切っていく。チャンスがあれば狙う。プレッシャーをかける。速い展開に持ち込む。

斉藤自身も前半は決まらなかった3点シュートを後半に沈めた。チームとしても反撃の気配は確かにあった。

それでも、相手もまた試合巧者だった。

伊丹が焦って前へ出る中で、相手は時間を使いながら、確実に得点できるところを突いてくる。後半に伊丹の意地は見えたが、試合全体をひっくり返すには至らなかった。

応援席の“黄色”が、斎藤の胸に残したもの

試合後、斉藤の胸に最も強く残っていたのは、応援席の光景だった。

客席に広がる黄色いTシャツ。声を枯らして届けられた後押し。あの雰囲気は、自分たちにとって確かな力になっていたという。

だからこそ、初日で大会を終えてしまったことへの思いは重い。

真っ先に浮かんだのは「申し訳ない」という気持ちだった。

ただ、そこでうつむいて終わるのではなく、斉藤は感謝を返そうとした。

試合後、手を振り「お疲れさまでした」と声をかけてくれた人たちに手を振り返す。その一つひとつが、勝利では返せなかった思いを、少しでも届けようとする行動だった。

言葉にすれば短い。だが、その仕草には、応援を当然のものと受け取らない斉藤の誠実さがにじんでいた。

所属先・日阪製作所への感謝。「また来年頑張ります」と言える理由

斉藤は2022年10月1日に株式会社日阪製作所へ入社した。
競技と仕事の両方に向き合う今の環境について、彼は特別な感謝を抱いている。

日頃から「頑張ってね」と声をかけてもらえること。会社の人たちが結果を気にかけ、支えてくれること。

そうした日常の積み重ねが、練習を続けるモチベーションになっているという。

天皇杯では、所属会社が応援企画を立て、決勝戦までの3日間のチケットを準備してくれていたとも明かした。だからこそ、結果で応えられなかった悔しさもある。だが、そこで終わりではない。

斉藤の言葉で印象的だったのは「天皇杯はここで終わりではない」という感覚だった。

4年に1度の大会ではない。負けたら終わり、ではなく、また次が来る。だからこそ「また来年頑張ります」と言えるし、そう言わなければいけない。

同時に、負けたあとに前を向く姿を見せることもまた、応援する人たちへの大切な返し方なのだろう。

そして、もう一つ。伊丹にとって避けて通れない相手として、彼の中に強くあるのが埼玉ライオンズの存在だ。
チームとして何年も続けて跳ね返されてきた相手。だからこそ、来季に向けては「どうやって埼玉ライオンズに勝つか」を突き詰めたいという。その言葉には、敗戦の悔しさ以上に、挑戦を面白がるような気迫すらあった。

倒さなければいけない相手がいる。その輪郭がはっきりしているチームは、強い。

悔しさが明確であるほど、次の一歩もまた明確になるからだ。負けたあとにこそ、そのチームの本当の姿が見える。

斉藤の言葉を聞いていると、この敗戦は単なる「負け」で終わっていないことが分かる。

緊張を抱えながら準備を重ね、勝つために考え抜いた。思い通りにいかず、迷い、焦り、それでもコートに立ち続けた。試合後には応援席へ感謝を向け、支えてくれる人たちにどう返していくかを考えていた。

そこには、競技者としての誠実さがある。

そして、伊丹スーパーフェニックスというチームが、ただ結果だけで成り立っているのではないことも伝わってくる。

斉藤は最後、応援してくれる人たちへ、こんな思いを託した。

客席に広がる黄色いTシャツの光景は、自分たちの大きな力になったこと。
その応援を結果につなげられなかったのは自分たちの責任であること。
それでも、その景色をこれからの練習のモチベーションに変え、来年度も頑張ること。

負けた後に残るのは、悔しさだけではない。支えてくれる人の顔が浮かぶから、また立ち上がれる。

勝てなかったからこそ、次は勝って返したいと思える。伊丹スーパーフェニックスの来季は、もう始まっている。

そして斉藤貴大もまた、あの黄色い景色を胸に、次の天皇杯へ向かって走り出している。

文/高野 篤

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