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敗戦から1週間、それでも前へ。伊丹杯で見えた再出発と体験会の子どもの笑顔


天皇杯の初戦敗退から、まだわずか1週間。
悔しさがきれいに消えるには、あまりにも短い時間だった。

それでも伊丹スーパーフェニックスに、立ち止まっている余裕はない。
2026年3月14日、伊丹市立スポーツセンターで第37回 伊丹市親善車いすバスケットボール大会(伊丹杯)が開催された。
伊丹スーパーフェニックス主催で行われる今大会は、3月14日から15日にかけて開催され、5チームによるリーグ戦形式で実施。伊丹はA、Bの2チームに分かれて大会に臨んだ。
会場では車いす体験会も予定され、競技の魅力を広く届ける場にもなっている。

参加者は実際に車いすに乗り、エレベーターの乗り降りや坂道の上り下り、自動販売機での飲み物の購入など、日常生活の中で直面する動作を体験していく。そこには伊丹スーパーフェニックスの選手たちが寄り添い、一つ一つの動作を丁寧にサポートしていた。

「下りはスピードが出るので、少しブレーキをかけながら」

選手たちは操作のコツを教えるだけではない。普段の生活の中で感じている苦労や、それをどう工夫して乗り越えているのかも、自分の言葉で伝えていた。

初めて車いすに乗る参加者にとって、坂道の上り下りや段差の乗り越えは想像以上に難しい。だが、その難しさを体験するからこそ、見えてくるものがある。

コートで激しくぶつかり合う車いすバスケットボールの姿だけではなく、競技の背景にある日常や努力を知ること。
それもまた、この大会が大切にしている時間だった。

 

この大会は、単なる地元開催の交流大会ではない。
天皇杯の悔しさを抱えたチームが、次の戦いへ向けてどう顔を上げるのか。その現在地が、はっきりと映し出される舞台でもある。

堀内翔太は、その複雑な胸中を率直な言葉で明かした。
「天皇杯のショックを完全に払拭できたかというと嘘になりますが、メンバーとも個別に次に向けて会話をして、前を向いて今日の大会に挑みました。来年の天皇杯に向けて、と言いたいところですが、来年の天皇杯はレギュレーションが変わることもあり、すぐに7月から負ければ終わりの戦いが始まります。なので、落ち込んでいる時間は少なく、すぐにチームを立て直して次に向かっていきたいと思います」

「完全に払拭できたかというと嘘になる」

その一言に、敗戦の重さがにじむ。だが同時に印象的だったのは、視線がもう先へ向いていることだ。傷が癒えてから前進するのではない。傷を抱えたままでも、次の戦いへ歩き出さなければならない。競技者であることの厳しさと、チームとしての責任感が、その言葉には宿っていた。

しかも、堀内が口にしたように、次の天皇杯へ向けた戦いは、もう遠い未来の話ではない。伊丹にとってこの伊丹杯は、気持ちを整えるためだけの時間ではなく、すぐそこに迫る負ければ終わりの戦いへ向けた準備の始まりでもある。だからこそ、この2日間に流れる1分、1プレーには、想像以上の意味がある。

坂田拓也の言葉は、そんなチームの姿勢をさらに端的に表していた。
「先のことばかりを心配していてもダメなので、今を大切にして積み上げていきたい」

未来への不安は、いくらでも膨らむ。レギュレーション変更、短い準備期間、そして天皇杯敗退の記憶。だが、そうした大きな不安にのまれないために必要なのは、結局のところ「今」を積み上げることなのだろう。今日の1試合、今日の1本のシュート、今日の1回のコミュニケーション。その小さな積み重ねだけが、数カ月後の勝負どころでチームを支える。坂田の言葉には、浮足立たずに前進しようとする伊丹の意思がにじんでいた。


そして今大会の大きなテーマの一つが、A・Bの2チーム編成だ。

森本裕規も、その狙いを明確に語った。
「今回の伊丹杯はチームの中でA、Bに分けて戦います。準レギュラーメンバーのBチームが、レベルを上げることでチーム全体の底上げになると思っています。全勝優勝を目標にしています」

このコメントが示すのは、目先の勝敗だけではない。
Bチームの強化を、そのままチーム全体の底上げにつなげる。それは層の厚さが求められる車いすバスケットボールにおいて、極めて現実的で重要な視点だ。主力だけが強くても、長いシーズンや大きな大会は勝ち抜けない。準レギュラーが経験を積み、判断力を高め、自信を深めていくことが、最終的にはAチームの競争力も押し上げる。伊丹杯はその確認の場であり、成長を促す実戦の場でもある。

しかも今大会は、伊丹にとって内輪の競争を外へ開く舞台でもある。
AとBに分かれて戦うことで、それぞれの選手が担う役割はより鮮明になる。誰が流れを変えるのか。誰がディフェンスで踏ん張るのか。誰が苦しい時間帯に声を出し続けるのか。そうしたものが、よりくっきりと見えてくる。勝利だけでなく、チームの未来を形づくる材料が、この大会には詰まっている。

伊丹杯は、交流イベントであると同時に、再起の場だ。
無料で観戦でき、車いす体験会も実施されるこの大会は、地域に開かれたイベントとしての顔を持つ。だがコートの中では、選手たちがそれぞれの悔しさと責任を背負いながら、次の勝負へつながる一歩を刻んでいる。

天皇杯で味わった痛みは、簡単には消えない。
それでも伊丹スーパーフェニックスは、そこに留まり続けない。
前を向くとは、過去を忘れることではない。悔しさを抱えたままでも、次の一歩を踏み出すことだ。

この伊丹杯は、その次の一歩をはっきりと示す大会になる。
AもBも、それぞれの立場で勝利を追いながら、チーム全体の未来を押し上げていく。
傷を抱えたチームが、それでも前へ進もうとする姿は、きっと人の心を打つ。

伊丹スーパーフェニックスの再出発は、もう始まっている。

【大会結果】
優勝:伊丹スーパーフェニックスA
準優勝:信州大学セローズ
3位:川崎WSC

文/高野 篤

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